中国留学へのターニングポイントは人それぞれ。
中国留学経験者へのインタビューを通して、様々な留学体験と帰国後の進路・就職等をご紹介します。
今回は、井上正順さんのインタビューです。
井上さんは不登校の経験があり、日本の大学に行ったこともないまま、中国の大学に留学します。中国に行ったからこそ得られたこと、中国をどのように見つめているか、などに迫ります。
本記事は「中国語ゼロからの本科留学・院進学(1/2)」からの続きです。
プロフィール
井上 正順(いのうえ まさゆき) 東京都出身。
北京語言大学漢語国際教育専攻学士・修士号取得。
北京留学中は北京語言大学日本人留学生会代表、北京日本人留学生社団顧問、日本希望工程国際交流協会顧問を歴任。
修士課程修了後、中国にてスタートアップを経験。2020年9月に大学時代の学友と日本で会社を設立。
現在は本業の他に、東京都日中友好協会青年委員会委員長として様々な日中交流活動を企画・運営している。
中国で今の自分を形成できた
―6年間中国で生活してみて、良かった点、悪かった点はなんですか?
良かった点はたくさんあります。まず、今の自分が形成できたのは中国のおかげです。中国の価値観を理解することができ、中国人と接することができるようになり、中国語も話せるようになりました。異文化も理解できるようになり、多少のことでは動じない図太さを身に着けることもできました。多様性についての理解も求められ、受け入れられるようにもなりました。一方で、自分の見せ方というのも学べたと思います。
悪かった点は、日本での大学生活を送れなかったことですね。日本人と大学の話をすると、そこで「私たちとは違う人」という線引きをされてしまう。教育関係の仕事をしているんですが、日本での大学生活の話ができないんです。
2つめは、中国以外を知らないことです。機会があればいろいろな国に行ってみたいと思っています。
―留学したことで、何か変化はありましたか?
自分の過去があって、今があると肯定できるようになりました。中国であれば、躊躇するのであれば、やってしまえとなるので、肯定できるような行動ができるようになったと思います。
18歳前の不登校だった時期があって、今があると考えられるようになりました。
中国語は多くの日本人がゼロから学ぶので、スタートラインがみんなと同じだったというのも大きいです。英語のようにもともとみんなが勉強している言語の国に行っていたらそうはなっていないと思います。
下剋上のような気持ちですね。
―ルームメイトとはどうでしたか?
臨時でルームメイトを見つける必要があったときに、年齢は上だが学年は下の長老と呼ばれている日本語が話せる韓国人とたまたま出会って、ルームメイトになることになったんですが、年齢による上下関係には厳しいなというのを感じました。その人以外は4人いましたが、すべて日本人でした。
―中国に行くことにネガティブなイメージはなかったですか?
初海外・初留学で中国だったので、祖父母は反対していました。大学院まで行くと、その頃には家族は何も言わなくなっていました。
―卒業してからは?
中国に残って働きたいと思っていたので、どういう形で働くのがベストかというのを考えました。
駐在員は条件を見ると良いと思っていましたが、日本企業に就職しないといけないし、あまりローカルな中国人を相手に仕事をするという感じではなさそうでした。ローカルの中国人を相手に仕事をしたいと思っていたので、現地で就職したいと考えていました。そう考えると、中国人はほとんどが大学院卒だったのと、就労ビザの取得条件としても大学卒業だと厳しいので、まずは日本で就職してということで、2年間働いてから大学院に行くことにしました
就職した際には、中国語学習のニーズや留学体験談の話をして全国各地を回っていました。
―駐在員を見ていて何か思うことがあったんですか?
すでに市場ができあがっていて、新規事業までは手が回らないという感じでした。中国人が現場、日本人は管理職なので、日本人会などで精力的に活動するという人が多かったです。現場の向上に行っている人は大変な思いをしていると思いますが、管理職は中国人とほとんど接する時間はないのではないかと思っていました。
―大学院は他は考えなかったんですか?
北京師範大学の教育心理学を学びたいと思っていたんですが、奨学金の対象になる専門じゃなかったんです。でも、北京語言大学は学部で学んでいたのと、学びたいと思っていた専門で最もすぐれているのが北京語言大学でした。また、北京語言大学をおすすめする仕事をしていたので、自分が他の大学に行ってしまったら言っていることとやっていることが違ってしまうので、行くことにしました。
―大学院は大変でしたか?
2年コースと3年コースがあり、私は2年コースに行きました。学部だと卒論で5000文字。大学院は毎週のレポートがそのぐらいの量書かなければなりませんでした。
日本語でレポートを書いたことがなかったので、日本語で期末レポートを書いてよいと言われたんですが、書き方がわからず大変でした。
―帰国後、中国語力の変化はありますか?
中国にいた時よりは落ちたが、言いたいことは言えている感覚です。現地に戻ったときに何か感じるかもしれませんね。
―大学院卒業後の進路についてはどう決めたのでしょうか?
就職活動はしなかったです。周りの人から声をかけられて、共感したら行くという感じでした。北京語言大学学部時代の友人が起業をしたんですが、大学院の時から出張をしたり手伝っていたので、修論を書いている間に呼び出されて、成都で起業するから成都に来てといわれて、そこに就職することにしました。
固定で給与をもらって、家賃を出してもらいました。
自分で起業をしたいと思っていたので、中国人脈と中国で働いたことがあるという経験がほしかったんです。
就職活動をしなかったのは、経営者を知っていて、しっかりした話ができることが大切だと思ったからです。その方が働いた後にギャップがないと思って。
方向性が定まっていないので、就職活動をしないでいました。誰かが救ってくれると思っていた。楽観的だったんだと思います。
言葉よりも、文化を理解していることが強み
―仕事をする中で日本人としての強みは感じますか?
中国語を話せる日本人、としての強みはそこまで感じないですかね。
言葉はツールなので、結局専門性がないといけないと思います。
中国で生活をした経験があって、その文化を理解していることは強みだと感じます。言葉を話せるのは当たり前。その人たちとどう同じ空間で交流して、仕事をしていくかが大切だと思います。
また、日本人とビジネスをしたいという人が集まってきてくれる、というのはあります。
でも、コネは実力があってこそ。友人でも、ビジネスになると豹変すると思います。
―中国の魅力とは?
よく聞かれるんですが、すぐには思いつかないですね。
中国にいるのが当たり前になっているので。日本人が日本のどこが好きと言われて答えられないのと同じだと思います。
一筋縄ではいかないというところが面白さだと思います。傾向も読めないし、どうしたら中国人と円滑に仕事ができるのかというのをいつも考えさせられるので、飽きない。それが面白い。お金で解決する部分が非常に多いというのも特徴ですね。中華料理も好きです。
常に最新の変化があるのも魅力です。1か月に1回北京に行くたびに変化を感じます。
―最後に、今後中国に関わりたいと思っている人へのメッセージをお願いします。
周りにも中国の人たちはたくさんいるんですが、郷に入っては郷に従えということで、日本のことを理解している人たちばかりです。中国現地の人に接しないと良さも悪さもわからないと思います。百聞は一見に如かずの通り、興味があるのであれば、とりあえず行ってみるのが良いと思います。その一歩を踏み出すのが大切。
旅行と留学は違います。留学をする、中国で生活したという経験は何ものにも代えられない経験になると思います。
你会では、中国留学を希望するみなさんに、中国語講座・マナー講座、留学前研修、留学サポートなどを行っています。