中国と日本の映画館の違い

今月3日、宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」が中国でも公開された。中国経済網によると、3月に米アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した本作品の公開は、宮崎駿監督の作品としては最速での中国上陸だという。清明節(日本のお盆のようなもので、今年は4/4-4/6が三連休とされた)中に上映された映画の中でも、一番の人気を誇る作品となったそう。公開後わずか5日で、(日本円)約100億円の売り上げを達成し、日本の興行収入約88億円を上回ったというのだから、その人気ぶりが窺える。


(写真1:日本映画やディズニー映画も度々上映される)

中国では日本同様、映画館に脚を運ぶ人が未だ少なくない。学校周辺を散歩すれば、映画館の入ったショッピングモールが15分に一軒は見当たる。日本でメインシアターや大箱と呼ばれる劇場ほどの巨大スクリーンやスピーカー、立体音響にお目にかかったことはまだ無いが、劇場によってはIMAXも上映しているようだ。今回「君たちはどう生きるか」を鑑賞した際は、上映開始後、なんだかくすぐったいと思えば、突如椅子がマッサージチェアへと化しており、大変驚いた。動きが停止するのも突然で、気がついた時には平然と通常の椅子に戻っていたので、それもまた不思議だった。明転後確認したところ、QRコードをスキャンしお金を払えば運転を継続できる仕組みだったようだ。サービスの幅も徐々に広がりをみせているということが伝わる体験だった。


(写真2:売店は日本と大して変わらない様子)

チケットは「高德地图」(マップアプリ)「微信」(メッセージアプリ)「百度」(検索エンジンの一種)などのアプリから購入できる。事前に購入した電子チケットを映画館の券売機にかざし、紙のチケットへと換える仕組みだ。料金は使用するアプリや時間、日程によっても大きく異なる。以前は日本と同じようにチケットカウンターでの購入も行われていたというが、現在は電子化されている劇場ばかりで、購入方法にも進化が見られるようだ。

(写真3:映画のお供はポップコーンと塩味の効いたスナックが定番)

最新の作品だけでなく、過去の作品を突発的に上映している点も日本とは少々異なる。宮崎駿監督作品「紅の豚」は日本語での上映にも関わらず、小劇場の6割ほどの席が埋まる程の人気振りで驚いた。「LALALAND」については、理由は全く不明だが、中程度の劇場に観客私一人の貸切状態で、スクリーンを独り占めできるという特別感を味わいながら鑑賞した。


(写真4:各作品のグッズは見当たらないが、どういうわけか身長計は設置されていた)

日本との最も大きな違いは、エンドロールが始まった途端に照明が煌々と灯され、殆どの人が席を立ってしまうところ。スタッフの方がエンドロール中に清掃を開始するのには未だ慣れず、心なしか焦ってしまう。それでも余韻を楽しみたい私は、エンドロールの最後までじっくりと楽しんでから後ろ髪を引かれるような思いで劇場を後にするのだが、その頃場内にいるのはいつも私一人だけ。最後にポツンと取り残され、ひとり余韻に浸りながら帰路に就くというのが毎回の「お決まり」と化している。

「映画泥棒」のように劇場内のマナーを喚起する広告が存在しないためか、上映中も賑やかに鑑賞する観客やスマホで眩しそうにチャットをし続ける観客、フラッシュを焚いて写真を撮影してしまう観客も珍しくなく、そうした点でも大きな「カルチャーショック」を受けた。

日本では上映前、広告放映開始時、上映開始時と照明も三段階に分かれながら少しずつ暗転していく劇場が殆どだが、中国の劇場はグラデーションをつけて暗転するということが一切ない。開始時間になった途端劇場が真っ暗になり、上映が始まる。日本の劇場には、観客が作品に没入する上で最善の環境をセッティングする為の工夫が随所に散りばめられていたのだと改めて実感した。(木村水映, 北京外国語大学, 2024年)


(写真5:次々と電子化が進む中国。最近では手の平をかざすと支払いが完了する精算機も。)

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Ryohei ISHIZUKA京都府日中友好協会 青年委員会青年委員長
日本の最大手通信キャリアに勤務の後、中国系通信キャリアの日本法人に転職。現在は企業向けのグローバル人材育成を支援する会社でコンサルタントとして勤務。 また、若者のキャリア構築に関心があり、勉強している認知科学を応用したコーチング理論を勉強しており、これまで延べ100名以上のキャリアサポートを行なった実績があります。 内閣府主催「日本・中国青年親善交流」事業における2020~2023年研修講師を担当。2024年には日本・中国青年親善交流事業に参加。