みなさんもご存知の通り、2月の中国は、新型コロナウイルスの影響でてんやわんやの状況でした。私は日本には戻らず、ずっと中国に滞在していたのですが、いろんな意味で息苦しかったです。
外では常時マスクを着用する必要があるので、第一に物理的な意味で、また、感染防止のために街の至る所が管理されているので、第二に心理的な意味で、息苦しかったです。私の住む南京市でも、「封鎖式管理」と呼ばれる移動制限が実施されています。具体的には、「小区」と呼ばれる人々の居住区の出入口を一か所に制限し、そこを出入りする際は、毎回、身分確認と検温が義務づけられています。私の場合は、学生寮と大学の食堂を出入りする際、サインと検温を求められます。
現地で暮らして感じたのは、その良し悪しはさておき、こうした中国式の管理を日本で実行するのはどだい無理だろう、ということです。日本でやるとして、まず、人権だ、移動の自由だとかいう声がネット上で噴出し、事態が紛糾しそうです。また、日本では、こうしたことをやるだけの人手が集まらないと思います。一方、中国では、多分ボランティアと思われる、熱意あるおじさん方、おばさん方が当番制で管理の仕事に当たっていて、私自身、いざというときにはこれだけの中国人が動くのか、と半ば感心しています。やろうと思えば何でもやれる中国の国力というか、そういったものは、現地にいて本当にすごいなと感じました。
ところで、「封鎖式」という名称から、半ば軟禁状態に近いものを想像される方もいるかと思いますが、実際にはそれほど恐いものでもなく、出入口できちんと申告さえすれば外出は可能です。私も、昼夜2回、大学の食堂でご飯を食べるために外出できているので、その点で生活上、特に困ったことはありません。こうした管理に対して、初めのうちはストレフルになっていましたが、人間たいていのことは慣れるもので、今ではあまり違和感を覚えません。時間が経つにつれ、出入口にいる門番のおじさんとも顔見知りになり、最近では向こうから、「また来たか」とか、「いつも食堂で何食べているの?」とか、「一時帰国しないの?」とか、気さくに話しかけてくれます。自分が日本人だということを伝えると、翌日から「こんにちは」と日本語で挨拶してくれるお兄さんもいました。ピリピリした雰囲気にあって、人情というか、こうした中国人の人なつっこい一面に接すると、心がふっと軽くなりますね。こういったところも、すごく中国らしいなあ、と感じた次第です。(佐野聡 南京大学 2019年)